スワロウテイル人工少女販売処(藤真千歳)

ハヤカワ文庫JAが送るライトノベル作家による書き下ろし長編第3弾。次は発表されていないので、とりあえずこれで一区切りでしょう。

“種のアポトーシス”の蔓延により、関東湾の男女別自治区に隔離された感染者は、人を模して造られた人工妖精と生活している。その一体である揚羽は、死んだ人工妖精の心を読む力を使い、自警団の曽田陽介と共に連続殺人犯“傘持ち”を追っていた。被害者の全員が子宮を持つ男性という不可解な事件は、自治区の存亡を左右する謀略へと進展し、その渦中で揚羽は身に余る決断を迫られる―苛烈なるヒューマノイド共生SF。

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

読み出すまでは人間と人間以上に感情が豊かなアンドロイドが登場するヒューマンドラマ的なものかと思っていましたし、タイトルにある「人工少女販売処」の語感は倫理的にイケないものなのかと思えます。ただ、「人間の優しさがわたしたちを傷つける/苛烈なるヒューマノイド共生SF」と帯にあるように、女性(男性でもいいと思うけど)を模したアンドロイドが登場する作品だとありがちな人間の側がアンドロイドを一方的に蹂躙する場面が、この作品にはありません。
物語は連続発生している傘持ちによる殺人事件を中心に進行します。関東湾の人工島に隔離された男女別自治区や人工妖精の成り立ち、殺人事件の真相が少しずつ明かされ、最後に事件を追っていた人工妖精・揚羽の正体に迫ります。
前の2作*1と比べると、割と舞台や設定が多くて細かいです。多くの場面が揚羽の視点で描かれてはいるのですが、どのキャラクターに対してもちょっと感情移入しにくく、散逸的になってる感じがしました。殺人事件に少し関わった置名草の最期(?)がかろうじてそうでもないかな、というくらい。水淵技師とか登場しなくてもよかったの?
けっこう壮大な舞台や人物の設定は、ほんとうによくできているように思います。男性側自治区の人工妖精の視点から描かれたのが本作品ですが、女性側もしくは人間側といった主人公の立ち位置を変えても小説として成立するのでしょう。シリーズ作品として展開したら、もう少し小説としてまとまりがでてくるのかなあとも思いました。
まあまあ面白かった。ただ、このレベルのラノベラノベレーベルが干すのかと思うと、個人的にはラノベ離れが進むなあ。それは前2作にもいえることだけど、あ「星の舞台からみてる」の人の作品がラノベレーベルから最近発刊されていたし、干されているわけではないか。