マルドゥック・スクランブル/圧縮

ちょっと前の話だけど、テアトル新宿で映画「マルドゥック・スクランブル/圧縮」を観てきた。

原作を読んでけっこう楽しめた者として、アニメ映画化を心待ちにしていた。ただ、GONZOがアレなことになって企画そのものがポシャってしまったけど、今年春くらい?だったかな、SFマガジンで「やっぱり映画化する!」みたいな記事を読んで、ああよかったなと。

感想

映画は本当に原作を忠実にトレースしている感じだった。バロットが巻き込まれることになった事件についてバロット含めた関係者が出廷するまでの間に、バロットがウフコックに少しずつ心を開いて、信頼を深めていく過程はけっこうホロリとくるものがある。
肉屋一家のキモさもよかった。生きた人の眼球や乳房を身体に埋め込む悪趣味さを、映像としてきちんと原作をトレースできているのを観ると映画になってよかったと思う。まあ、肉屋は思っていたよりあっさりやられちゃったけど、バロットによるウフコックの乱用・残虐性の現出としてみれば、これも原作ファン?的には納得の出来映えだった。
冒頭のシェルとバロットのカーセックスシーンとか、余計かなと思わないでもないけど、とても楽しめた。

原作は三部作。映画も

原作側が三部作ということで、映画もそれに合わせて三部作ということになっている。今回は1作目の「圧縮」、次以降に「燃焼」「排気」と続く。
そういうこともあってか、本編の上映時間は劇場作品としては少し短く、65分ということになっている。
アニメ化企画当初のプランがどうなっているのかは分からないけど、これでは原作ファンや原作に関連するアニメファンしか観に来ないのではないかと思った。奈須きのこの「空の境界」は全7部作でアニメ映画化されたけど、これをいわゆる映画だと思う人がどれだけいるだろう。OVAを劇場先行公開しているという表現のほうが適切だというか。
マルドゥック・スクランブルのなかでとりわけ好きなのは、2巻から3巻にかけて展開されるバロットとウフコックがシェルのカジノで大暴れするエピソード。だから、映画化するという話を聞いて、上映時間はせいぜいいって90分だろうから、そのなかで3冊あるエピソードの取捨選択をどうするかが気になっていた。まあ、映画も原作同様三部作となったことでそれは杞憂となった。

もったいないというか

このご時世で望むべくもないことかもしれないけど、原作を知らないアニメファンやアニメファンでもない人に訴求できる展開と思えない、恐らくそういう人は観にいかないだろうことが残念だ。それだけ原作は面白い内容だと思っている*2
また、原作の表紙イラストは寺田克也がやっていたから、アニメ化するなら村田蓮爾やそのテイストがあるキャラデザになるかと思っていたけど、ぜんぜん違っていた。観るまではそこに少し違和感があったけど、実際に観たらそれはそれなりにハマっていたし、違和感はなかった。
それだけ映画としての出来映えがいいということ。だから、もったいない。三部作としたこと、原作忠実トレースを方針としてしまったこと。
原作ファンから多少の文句が出てもいいから、100分くらいの尺でまとめきって、全国ロードショーできる展開であってほしかった。原作にはそれをさせる力があったと思う。

*1:冲方丁の公式サイトなんだけど、いつのまにかBloggerになっていた

*2:一般への訴求度は低そうとだと書いたけど、八嶋智人にウフコックの声をあてているあたり、作り手サイドの思惑はそうでもなかったのかも……